小説「六人の嘘つきな大学生」

今年の11月に映画化されるというので、読んでみました。タイトルからして面白そうだなと思わせてくれる作品です。映画の出演者の写真が印刷された帯の版も売っていましたが、長女の意見も聞いてあえてその写真の無い帯の版を選んで買ってきました。

あらすじは、IT企業「スピラリンクス」の採用試験の最終選考まで残った6人の大学生が、最終選考において会社の課題をチームでディスカッションするためにチーム作りをおこなっていたところ、ディスカッションの内容が「6人の中から一人の内定者を決める」という内容に急遽変わり、その場で個人攻撃の封筒が見つかり、その犯人を明らかにしていくという内容です。タイトルから想像していた内容とは良い意味で期待を裏切られたとても面白い内容でした。2011年の採用試験の話と、8年後の2019年の話が並行して進むのでわかりにくいところもありますが(特に2019年の話は誰が話し手なのかわからない書き方なので、想像が膨らみます)、真実に向けたヒントや伏線が随所にあって、何度も戻って見直して感心するということを繰り返してしまいます。(例えば、嶌は座布団が苦手など・・・)

この作品のテーマのひとつとなっているのは、企業の採用試験というのものです。私も採用の場に立ち会ったことがありますが、人を選別するというのは本当に難しいと感じました。どういう人間をどういう基準で評価するのかということも、この作品で考えさせられてしまいます。企業も人が来てくれるように嘘をつき、学生も自分を売り込むために嘘をつく。嘘をつくのは6人の大学生だけではありません。そんな採用試験になんの意味があるのかという問いかけもあります。

一人の内定者を決めるディスカッションで封筒に書かれた内容によって、そんな自分を売り込む嘘以上の罪が暴露されて、この6人(実際に暴かれたのは5人)のクズな姿が明かされていきます。そんなことをしたものは誰なのか考えながら読んでいくのですが、8年後の「犯人の死」によって動く真実は、裏をかかれてさらにその裏をかかれるような意外な結末で終わります。しかもクズだと思わせていた6人の真実の姿も明かされていき、そうだったのか、それは優しさだったのかと涙腺が緩む感動さえ感じます。

その真実の姿によって考えさせられるのが、この作品のもう一つのテーマである人間の裏表。人間と言うのは、裏と表があって、一部の裏だけで人を悪く評価したり悪く決めつけたりしてしまいますが、その危険さと過ちにも気づかないといけないということかなと思います。若い頃は、一面だけ見て良し悪しを決めがちでそれが純粋でもあります。人や組織には裏表があるとわかってきて、それが大人になるということなのかも知れません。それはズルくなるというのではなく、良いところも悪いところを両面みる(特に良いところを見る)ことで優しくなるということにもつながるのかなと思いました。

面白くて5時間半で一気に読み終えましたが、本当に面白い作品でした。11月の映画が楽しみですが、この面白さがどれだけ表現されているかも興味深い見どころです。特に文字では隠された嶌の姿はどう映画で扱うのか興味深いです。長女の言うように原作を先に読むというのが正解だなとあらためて思いました。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

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