小説「湖畔のテラス」

通院時の診察待ち時間で読もうと思って本棚を眺めていて選んだ文庫本です。買った記憶が消え去っているので、いつ、誰が買ったのかわからない本です。発行日から判断すると20年近く前に買ったものだと推察されます。作者の赤川次郎は、私の年齢では「セーラー服と機関銃」、「探偵物語」、「三毛猫ホームズ」など、とても強く記憶に残っている作家です。

「湖畔のテラス」は、6編のミステリー短編集です。ホラー的なものもあったり、ホロっとさせてくれるものがあったり、それぞれが魅力的です。それぞれの終わり方が明確に結果を明示していないのが、余韻を残したままで読み手の想像力に任されているような気がします。電話は固定電話と公衆電話しか出てこないので、そこは時代を感じさせます。

第一話「湖畔のテラス」妻には仕事と偽り、若い恋人と晩秋の湖を訪れた男を待ち受ける残酷な企み・・・
第二話「真夜中の停電」妻の思いも知らず、部下数人を突然家に連れてきた夫、突然の停電が起きて・・・
第三話「砂に書いた名前」女友だちの父に招かれ、孤島の別荘に出かけた大学生が体験する血も凍る恐怖・・・
第四話「静かな闘い」突然、妻が子供を道連れに自殺、その原因を作った暴走族に夫の戦いとは・・・
第五話「離婚案内申し上げます」突然妻があちこちに「離婚通知」を発送、積年の証拠を示され動転する夫・・・
第六話「窓際連盟」転勤を断り窓際に追いやられた若者、同じ境遇の窓際が集まっての復讐とは・・・

「湖畔のテラス」は妻と姪の冷ややかな態度が恐ろしい。若い恋人が可哀想に感じるとともに、夫の心情もちょっと切ない。「真夜中の停電」は、妻の変心がこれも恐ろしい。ただ、この夫はどうしようもない気もするがどこにでもいるような男なので、結果は悲劇的。「砂に書いた名前」は、最後まで何が真実かわからず、意外性あり。しかし、こんな恐ろしい女友達ならば孤島でなくてもなんとなくわかるはず。「静かな闘い」は、この家族が切ない。自分が男の立場だったらきっと復讐に燃える。気持ちをわかってくれてとめてくれる部下がいることが救いだけれど、死んだ妻はそれを喜ぶか?「離婚案内申し上げます」は、一番心を打たれた素敵な一編。最初は妻の仕返しのように思えたことは、実は自分を忘れてほしくない心と、残される夫のための行動だった・・・「窓際連盟」は、そもそもの設定が極端すぎて、さすがに一課長の意思でそんな酷いことができるのかという違和感あり。古い作品だから仕方がないが、今の時代ならばあきらかに酷いパワハラ。窓際連盟の仕返しも、陰気臭くて痛快感が乏しい。

短い時間で手軽に楽しめる短編は魅力的です。かつ6編ともテンポが良くて結末が読み難くて、最後まで興味深く読める作品ばかりでした。内容的にも、感動するもの、人間の怖さを感じるもの、執念を感じるもの、本当の恐怖を感じるものとバラエティに富んでおり、とても楽しめました。気楽に待ち時間などで読むにはこういう作品はぴったりだと思いました。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

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