全5編のオムニバス自主制作映画ということですが、それにしては豪華で演技力のある俳優さんを集めており、ずっと興味を持って気になっていた映画です。しかし、上映館がとても少なく、私の住んでいる県では上映館はひとつしかありませんでした。公開時期も2005年1月3日と、かなり遅れての上映となっています。
川沿いにポツンとひとつ置かれている木製のベンチ。もともとは公園だったのだけど、遊具とともにそのベンチ以外はすべて撤去されて今の状態になっています。そのベンチで起きる五つの出来事が描かれていきます。
■第1編「残り物たち」
若い女(広瀬すず)が、公園がなくなりベンチだけになっていることを知って、そのベンチに幼馴染の男(仲野太賀)を呼びます。相思相愛なのに打ち明けられないもどかしさとおかしさがとても微笑ましいです。
■第2編「まわらない」
ホームセンター帰りの恋人(岸井ゆきの/岡山天音)の会話です。ベンチで女性が日頃の些細な不満が積って寿司桶ににぎり寿司がたまっていく様子に例えて説明を始めます。そこにいつもベンチでパンを食べる男(荒川良々)がその会話に割り込んできます。女の恋人に対する不満が笑えますし、間に入った男がいい緩衝材になって面白いです。
■第3編
ベンチの前で、絶叫しながら喧嘩をしている女性二人。二人は姉妹で、男を追いかけて捨てられベンチで野宿している姉(今田美桜)を妹(森七菜)が心配してやってきて家に戻ることを説得しています。姉の好きな男を忘れられずに苦しむ辛さ、姉を心から心配する妹の心情がよく伝わってきます。あんなに激しく言い合っていた姉妹が、最後はお互いの思いを少し理解し合って、笑い合って終わるのがいいです。
■第4編
ベンチを撤去するために来た役所の二人(草彅剛/吉岡里帆)の会話です。男は頼りなく言うことに一貫性が無くて、女はそれを鋭く突っ込むようなしっかり者です。しかし、突然ふたりはおかしな言葉で会話を始めます。実はベンチは二人の父親の化身かつ宇宙人で・・・という突拍子もない結末なのですが、そこでなぜか、撮影風景となります。その監督が神木隆之介なのですが、何が現実なのか戸惑うバカバカしいような面白さがいいです。
■第5編「さびしいは続く」
第1編の後日談です。ふたりはやっとお互いの気持ちを伝え結ばれる様子。公演の跡地に建つ保育園の建設工事で立ち入り禁止となるため、この日がベンチに触れることができる最後の日ということで、ふたりはまたベンチで会話をしているのですが、幸せそうで穏やかな二人の会話がまた微笑ましいです。
期待通りに面白い作品でした。何気ないどこにでもありそうな会話なのですが、それぞれの思いや感情がよく伝わってきて、自然とその会話に引き込まれていきます。有名な俳優さんばかりなのに、みんな自然で普通の人っぽいのはさすがで、実力派俳優だからこそ成り立つのだと思います。それにしても、人と人の会話は、わかりにくくて、自分勝手で、もどかしくて、実世界の実際の会話も、ベンチの立場で引いて見ると、この映画のような滑稽さもあるのかもしれません。滑稽だからこそ、微笑ましくてほっこりとするのかもしれません。そんなことを感じました。
だからなんだという内容にも思えますが、会話を楽しめる良質な短編集ということで、私は好きな映画で観て良かったと思いました。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。


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