これも正月用に読もうと思って買った小説です。タイトルを見て面白そうだと思って買いました。もともとは「復讐屋成海慶介の事件簿」というタイトルでしたが、昨年このタイトルに改題された新装版となります。
結婚を思い描いていた男に裏切られた上に会社を追われた美菜代は、深く傷ついてその男に復讐をすることを心に誓います。美菜代は、復讐の凄腕だと噂される復讐屋・成海慶介の事務所を尋ねますが、成海はセレブからの依頼を高額で受けることしかしておらず、美菜代の依頼を成海は断ります。美菜代は仕方なく事務所で働くことにして、復讐のやり方や極意を得ようと考えます。いくつかの成海による復讐の代行のやり方を見て美菜代は・・・というストーリーです。
作品は次の5話から成り立っています。
<第1話 サルに負けた女>
交際相手にペットのサルの病気を理由に婚約破棄された女・荻野貴美子の復讐の話。
<第2話 オーケストラの女>
新加入の指揮者とヴァイオリニストにオーケストラの居場所を奪われた女・永倉乙恵の復讐の話。
<第3話 なんて素敵な遺産争い>
成海のかつての客で離婚を勧めた浅野小百合の元夫と息子から小百合に家に戻るように説得することを依頼された成海。その背景には遺産問題が絡んでいる。小百合はどうするのかという話。
<第4話 盗まれた原稿>
シナリオスクールの仲間に自分の作品を盗作された、シナリオライター・永沢めぐみの復讐の話。
<第5話 神戸美菜代の復讐>
約70年前に自分を捨てた男に復讐をする老婆・高遠まさの復讐の話と、自分を捨てた男に復讐をする美菜代の復讐の話。
この作品では、復讐屋とは言っているものの、痛快な復讐劇でスカッとすることはありません。逆に復讐なんかしない方が良いということを読者に伝えてきます。成海の信条は「復讐するは我にあり」という聖書の言葉で、復讐するのは自分ではなくて神なのだという意味です。人を憎み復讐をしたいと思う心は誰にでも湧き上がる感情です。人を憎んでいるその奥には実は自分を憎んでいる裏返しということもあります。成海のような人物に復讐を依頼するためには、憎むという強いこだわりとエネルギーが必要です。さらに大金も必要です。それほどの憎しみを持つ依頼者に対して、成海は肩透かしのように何もしないでその憎しみを異なる方向に変えます。金の亡者でぶっきらぼうに見える成海は実は優しい人間なのだろうと思えます。第5話で美菜代の復讐を止めるところなど、ちょっと感動してしまいました。私に今後、強い憎しみや復讐心が芽生えるようなことがあれば、この作品を思い起こしてみたいと思います。思い起こすことで、その時の復讐心を神に任せられるかは現時点では自信はありませんが。
ひとときの感情で復讐をすることで、実は自分の感情も傷つき人生も傷つく。そんなことは神に任せて自分は何を本当はしたいのかに気づいて前向きに生きることが大切なのだと教えてくれる気づきとともに、成海と美菜代の関係性や会話も楽しめる面白い作品でした。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。


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