小説「Nのために」

今年に入って長女と書店に行った時に面白そうだと感じて購入したものです。

マンションで裕福な夫婦(野口貴弘、野口奈央子)が殺された事件から始まります。事件現場にいた4名(杉下希美、成瀬慎司、西崎真人、安藤望)の証言で、夫が妻を殺し、夫を西崎が殺したということで、西崎に懲役10年の判決が出ます。しかし十年後、4人によって過去と事件時の真実が語られたことによる真相は・・・というストーリーです。

作品は次の5章から成り立っています。
<第1章>
事件、警察への証言(杉下希美、成瀬慎司、西崎真人、安藤望、受付担当者、ラウンジ担当者)、判決、十年後のある証言
<第2章>
成瀬慎司の過去と事件の真実と十年後の思い
<第3章>
西崎の小説「灼熱バード」と、安藤望の過去と事件の真実と十年後の思い
<第4章>
杉下希美の過去と事件の真実と十年後の思い
<第5章>
西崎真人の過去と事件の真実と、杉下希美の十年後の思い

それぞれの話を聞きながら、真実はどうだったのかを明らかにしていくという構成は興味が持続できて面白かったです。ただ第2章以降は、一人称でそれぞれの思いを話しているので、誰に話しているのかがよくわからない構成でした。それと、同じ出来事を複数人の観点で時間軸を戻して語られて、しかもそれぞれが隠し事を持っているので、全体像がつかみにくくわかりにくかったです。何度も後戻りして読み進めていく必要がありました。気楽にどんどん読み進めるという感じではありませんでした。最終的には、「なるほど、そういう各人の思いと行動だったのか」と全体像が見えてきますが、すべてが明確になったという感じはしません。誰かが誰かのために嘘をついている、そこは最後まで残りました。すべての登場人物の姓か名がNから始まるので、それぞれが自分の大切なNを守るために嘘をついている、そういう感じです。希美の、「その人のためなら自分を犠牲にしてもかまわない。その人のためならどんな嘘でもつける。その人のためならなんでもできる」「自分が守ってあげたことを、相手は知らない。知らせたいとは思わない」という言葉は、みんなに当てはまるような気がします。

しかし、人の命に関わる事件で、大切な人を守るためといって嘘をついていいのかは、ひっかかるところです。そういう意味で、読み終わったあとの爽快感や共鳴感は無くて、ちょっとモヤモヤ感が残りました。読んだあとに2014年にTBSでドラマ化されていることを知りました。ドラマだとどう感じるのか興味がありますので機会があれば観てみたいと思いました。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

コメント