小説「午前二時不動産の謎解き内覧」

この作品も一風変わったタイトルに興味を持って購入しました。文庫本書下ろし作品です。

三軒茶屋のはずれに、深夜2時から4時までの間だけ営業する「午前二時不動産」。店主は美青年・柏原泉といい、深夜に迷い込んだ客たちにぴったりの格安物件を紹介する。しかし、その物件は事故物件であり入居の契約には泉とともにその物件にまつわる謎を解くという条件が与えられる・・・というお話です。客は3人で下記のような部屋の謎を解きます。

第1章「ハムスターを追いかけた部屋」
 【物件と謎】渋谷区 1K 47,000円 自殺 ハムスター突然死の原因
 【客】恋人との同棲を解消したばかりのハムスターを飼う女性・谷口あや
第2章「名無しの手紙が届く部屋」
 【物件と謎】江東区 2LDK 95,000円 自殺 手紙の差出人特定
 【客】小説家として再起しようともがいていた作家・瀬名律斗
第3章「魔法の箱が開く部屋」 世田谷区 2K 80,000円 病死
 【物件と謎】死の直前に残した言葉の意味
 【客】シェアハウスに息子・宗馬と暮らすシングルマザー・西澤涼子

設定は面白く、謎解きもそれなりに楽しめる作品でした。しかし、深夜2時から4時に開く不動産屋という意味にあまり説得力無く、その不気味さも作品全体にあまり感じません。ただ、その時間帯にやる仕事があるという柏原泉の選択という程度です。そんな時間に迷い込んでくるという客も、たまたまその時間帯にいたというだけで、昼間に訪れる客との状況や環境の差もありません。そのあたりがアイデア優先に感じてしまい必然性を感じませんでした。謎解きも、第1章、第2章は裏の裏というような謎の深さや驚きは感じられませんでしたし、第3章は絵がからんできてその部屋の雰囲気が想像できないので、ただ文字を追っていくという感じになってしまい、謎の面白さがあまり伝わってきませんでした。謎を解くことで、元の住民の切なさや悲しさが暴かれていくことになるのですが、その切なさや悲しさも、共感したり感情移入することはできませんでした。特に自殺については、そこに至るまで思い詰める心情が弱くて理解できないですし、第3章も過去に少し一緒に暮らしただけの少女に寄せる家族のような感情がいくらなんでも無理がある(現実的ではない)ように思えます。

謎の結果を知りたくて最後まで読み進めたいと思いましたし、登場人物も前向きで好感の持てるキャラクターで読みやすい作品ではありましたが、感情移入したり感動したり感心したり驚いたりするようなところは少ない作品だったのはちょっと期待外れでした。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

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