小説「天国からの宅配便 あの人からの贈り物」

書店で面白そうなタイトルだと思って買ってきました。あとで知ったのですが、この作品は『もう会えないあなたに、伝えたいことがある。生前に託された依頼人の遺品配送サービス「天国宅配便」シリーズ』だということを知り、今回買ったものは第2弾という位置づけになるそうです。最初から知っていれば順番に第1弾から読みたかったところです。ちなみに、第1弾は「天国からの宅配便」、第2弾は「天国からの宅配便 あの人からの贈り物」、第3弾は「天国からの宅配便 時を越える約束」となっています。

内容は、ひょんなことから遺品のカメラを手に入れた転売屋、子供の頃に別れた友人から「読めない手紙」を届けられた曾祖母、誰にも言えない恋を胸にしまう庭師、7人の連名で遺品をもらった女性…、の4つの物語です。遺品配達人・七星律が贈り物を通じていくつもの人生と出会っていく優しさに満ちた物語です。

第1話 父とカメラと転売人
転売人・及川基樹に、転売のためにカメラ好きと偽ってカメラを譲り受けていた尾崎一義から貴重なカメラが遺品として届いた。しかし、そのカメラは本当は尾崎一義の行方不明の息子・剛史に渡したかったものだった。及川は剛史を捜してそのカメラで儲けようと企むが・・・
第2話 七十八年目の手紙
入院している90歳近い小鈴君枝の元に、アメリカのヤギ・マサコから遺品が届いた。遺品は読めない不思議な手紙だった。君枝の代わりに手紙を受け取ったひ孫の越智仁美は、なんとか手紙の内容を明らかにして君枝に伝えようと奔走する・・・
第3話 最後の月夜を君と
庭師の娘・武井岩子は、幼い頃から矢井田家の大温室で4歳年下の矢井田広之との時間を楽しみにしていた。その恋心は誰にも言えずに岩子も庭師になり年月が経った。そして、心臓の持病で亡くなった広之からの遺品が届く。指定場所の大温室で遺品をあけると中は何も入っていなかった・・・
第4話 わたしの七人の魔女
ある日、森山亜美のところに、二色テツ子からの遺品が届いた。七人の女性の連名で、大事なものの受け渡しの招待状だった。しかし、亜美はその七人の女性を祖母と慕っていたが、ある時期から遠ざけられたという苦い思い出を持っており憎んでいた。招待状を拒否する亜美に対して、七星は七人の老婆を尋ねようと提案する・・・
エピローグ
いつものように遺品を届ける七星。しかし、お届け先もすでに亡くなっており、遺品をうけとってもらえないケースもある・・・

第1話は、及川の欲深い行動から尾崎の息子・剛史の幼い頃からの悩みや苦しみが明らかになってくるという展開でしたが、剛史のその気持ちはよく理解できるものの、話としてその葛藤や悩みの表現があまり伝わってこなくて、感情移入するところまではいきませんでした。

第2話は、戦争時のアメリカでの難しい日系人の立場が元になっている物語でしたが、そういう環境や最後に伝えたいことが心にあまり訴えてこなくて、この物語もあまり響きませんでした。

第3話は、切ない恋心の物語ですが、家の格式や自分の気持を押し殺すとかいうところにあまり共感できなかったのと、広之の遺品の気持はわかるが、病弱な夫を支えてきた広之の妻・紗耶香のことを考えると、美しい結末なのに褪せた見方しかできませんでした。

第4話は、七人の魔女(老婆)と亜美の関係が気になり読み進めると、途中からなんとなく七人の魔女の思いが推察されてきて、その思いを亜美はどう受け取るのかということに興味が変っていきました。亜美が七人の魔女の思いを知らされる場面は思っていた以上に感動的で、途中から涙が溢れてきて何度もティッシュで涙を拭くということになってしまいました。その場面は家で読んでいたので助かりましたが、外で読んでいたらとんでもないことになってしまったかもしれません。

第1話から第3話までは、「天国からの宅配便」という興味ある着眼点に対して、心に響かせるストーリーが不足しているのではと思って少し期待外れで読んでいました。これらの話は、遺品で自分の思いを伝えたり、受け取る側の思いを知ったりするのではなく、生きているうちに思いや真実は伝えておくこともできたはずだと思えるからかもしれません。それに対して第4話は、自分たちがいなくなってからこそ、真実を伝えることに意味があると思えたから、それぞれの思いに対する感動がしっかりと伝わってきたのだと思います。

今、生きている時に伝えるべきこと、自分が死んだあとに伝えるべきこと、それを考えさせてくれる作品でもありました。どんな遺品で自分の心が響くのかを知るためにも、他の「天国からの宅配便」の作品も読んでみたいと思いました。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

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