「天国宅配便」シリーズの第2弾「天国からの宅配便 あの人からの贈り物」を読んで、生きている時に何を考えるべきかと考えさせてくれる作品だと思ったので、第1弾の作品も読んでみたいと思って買ってきました。
この作品も4つの物語となっています。遺品配達人・七星律が贈り物を通じていくつもの人生と出会っていく優しさに満ちた物語です。
第1話 わたしたちの小さなお家
ゴミ屋敷となっている家にひとりで暮らす新垣夕子のもとに、かつてその家で一緒に暮らしていて亡くなったふたりの友人から遺品が届いた。夕子はふたりに金銭的な面で複雑な思いを持っており、遺品の受け取りを拒否する。しかし、配達人の七星と話をしているうちに、夕子は徐々に三人で暮らしていた時のことを話し始め、遺品であるカセットテープを聞くことにする・・・
第2話 オセロの女王
田舎に住む高校二年生の住井文香は、保守的な考えの父や祖母に対して反感を持っており、東京の大学への進学を考えていた。人生の邪魔だと思っていた祖母が、ある日骨折で入院しそのまま帰らぬ人となった。そんな時に、見知らぬ男・糸谷健一郎から八重の代理依頼人として八重の遺品が届く。その遺品は祖母には似合わないゲーム機だった。七星の指示によりゲームを起動した文香は意外な祖母の一面を知る・・・
第3話 午後十時のかくれんぼ
42歳の生活に疲れた巴山祐は、仕事が終わると公園でビールを飲むのが日課だった。そこで思い出すのは、幼い頃からかくれんぼが大好きでいつも一緒にかくれんぼをしていた三木田真帆のことだった。巴山は真帆のことが好きだったが、真帆が結婚したことで別の人生を歩んでいた。ある夜、公園に遺品が届いた。それは真帆からの手紙だった。真帆に何があったのか、なぜ公園に遺品が届けられたのか・・・
第4話 最後の課外授業
ある日、長部彩香のもとに遺品が届く。遺品の依頼人は、高校時代の部活顧問だった真田光彦。遺品は手紙だった。配達人の七星は、真田から長部が他の4名の部員に手紙を届けるようにとの指示があったことを伝える。長部は気が進まないが4名を探し出して手紙を届ける。そしてその手紙の内容は、それぞれが指示された物を持って指定された日時に集まることだった・・・
エピローグ
天国宅配便の事務所に、依頼人の牧野悦子がやってくる。嫌われている娘に貴金属を届けてほしいというだけの依頼だったが、その牧野に七星がそれでいいのかと問うのだが・・・
第2弾では最後の話を除き心に響くストーリではなかったのですが、この作品はすべての物語に対して心に響き涙を流してしまいました。どの物語も、依頼人と残された人の気持がよくわかり、切なくなったり、優しさを感じたり、人との関係の難しさを感じたり、とても共感する部分が多かったからだと思います。
第1話は、友ふたりと仲良く暮らしていた時に夕子の感じていた劣等感みたいな思いがよくわかります。客観的に観れば卑下することでもないのですが、親しい仲でも相手が自分をどう思っているのかは気になります。それがモヤモヤしたままその友人たちは先に逝ってしまい、夕子はすべてに生きる気力を失ってしまって社会からの疎外感も感じるようになってしまいます。しかし、残された夕子のことを思った友の遺品によって友の気持を知り、そして周りの人たちの優しさにも気づく。そんな優しい物語でした。
第2話は、保守的で厳しい祖母が実は自由に生きることができなかった後悔を持って生きていたという結末が、なんとも切ない物語でした。本当の気持を若いオセロゲーム仲間に話して孫にも残すというのは感動的なのですが、自分が自由に生きることができなかったからといって、それを嫁や孫や地域の人々に押し付けるのはどうかという感じもします。しかし、そうせざるを得なかった環境があったと考えると、それも祖母にとっては苦しいものだったのかもしれません。
第3話は、切なく悲しい恋愛物語です。映画「桜のような僕の恋人」と同じく、自分の姿が変っていくことを隠して好きな人の前から姿を消すという真帆の気持が痛いほどわかります。出会っても気づかなかったというのも映画の設定と似ています。公園で巴山がケガをした時になんとなく筋書きが見えてしまったのは、その映画を観ていたからかもしれません。しかし、それぞれの心情がよくわかるので感動的な物語だったということには違いありません。
第4話は、よく考えられた面白いストーリーだったと思います。泣けるほど感動的なのですが、前向きに明るく微笑んでしまう、そんな爽やかな風の吹くような物語でした。この顧問の先生が残してくれた遺品は5人にとって人生で大きな転機になったと思います。人間関係とはうわべだけで感じた印象で決めてしまっては損をするかも、ということを教えてくれます。引っ込み思案で自分が傷つくのを恐れて自ら人間関係を求めない私にはとても考えさせられる内容でした。
このシリーズは遺品という形の人生の心残りや後悔を伝えるという内容で感動を生むものですが、できれば生きているうちにそういうものを無くして安らかに眠ることができれば、より素敵な人生になるかもしれないということを教えてくれる物語です。心残りや後悔を残さない生き方を考えて日々人と向かい合って生きることが大切です。
第3弾の「天国からの宅配便 時を越える約束」はまだ文庫本にはなっていませんが、いつかは読んでみたいです。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。


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