小説「儚い羊たちの祝宴」

帯の「大どんでん返し5連発」という表記に惹かれて買いました。あとで知りましたが、映画「氷菓」の原作者でもある米澤穂信の作品です。夢想家のお嬢様たちが集う大学の読書サークル「バベルの会」の会員にかかわる5つの話で構成されています。

【あらすじ】
身内に不幸がありまして
丹山吹子は「バベルの会」のメンバー。蓼沼でおこなわれる夏の読書会合宿の二日前、丹山家で吹子の兄が使用人を襲うという惨劇が起きた。宗太は当主の逆鱗に触れ勘当されるが、翌年には吹子の伯母・満美子が、翌々年は大叔母・神代が同じ日に殺害されるという事件が起きる。そして四年目には使用人・村里夕日が殺害される。物語は、村里夕日と丹山吹子のそれぞれの手記によって綴られ、驚きの真実と動機が明かされる・・・

北の館の罪人
六綱家当主の妾の娘・内名あまりは、母の死を機会に六綱家に引き取られ、六綱家の別館でそこの住民の世話を言いつかる。住民は若い頃に家を出て事故に遭い死んだとされている当主の長男・早太郎だった。そのため、家は次男の光次が継いでいた。早太郎と光次には詠子という妹があり、詠子は「バベルの会」のメンバーだった。早太郎に気に入られたあまりは、早太郎から風変わりな買い物を頼まれていた。しかし、早太郎はあるものを残して若くして亡くなった。そして残されたものに隠された秘密を詠子は読書会での経験から解き明かす・・・

山荘秘聞
山の奥にある辰野家の別荘・飛鶏館の管理人となった屋島守子。そこを気に入った守子は、いつ誰の訪問があっても良いように別荘の管理を完璧にしていたが、1年が経っても誰も訪れることはなかった。守子はかつて働いていた前降家のお嬢様と「バベルの会」の手伝いで蓼沼の読書会に参加したことがあった。その時のように、飛鶏館で「バベルの会」のメンバーの世話ができればいう夢を持っていた。そんなある日、守子は遭難した男を助けて館で療養させる。翌日、飛鶏館に救助隊が訪れる。守子はその機会を逃さず、自分の思いを実現していく・・・

玉野五十鈴の誉れ
小栗家の一人娘・小栗純香は、祖母に小栗の家を守り再興することを強いていた。祖母の娘である母も純香も祖母の言葉は絶対で従わざるを得なかった。入り婿である父は祖母の眼中になかった。純香の15歳の誕生日に、玉野五十鈴という使用人を与えられた。純香と五十鈴は祖母の厳しい目を逃れて、友人のような関係を築いていった。大学に進んだ純香は「バベルの会」にはいり、五十鈴も手伝いで参加するようになり、蓼沼での夏の読書会を楽しみにしていた。しかしその前に、純香の父の弟が殺人事件を起こした。純香はそのことで跡取りの座も五十鈴という存在も奪われることになった。その結末は・・・

儚い羊たちの晩餐
かつて「バベルの会」の会合がおこなわれていて、今は荒れ果てたサンルームにメンバーであった大寺鞠絵の書いた「バベルの会はこうして消滅した」という物語が置かれていた。大寺家の主人である鞠絵の父は、成金趣味の出来の良くない跡取りだった。ある日、父は宴の料理専門の料理人(厨娘)・夏を雇った。夏の作る料理は素晴らしいものであったが、食材を目的のところしか使わないという贅沢なものであった。誰にも作ったことが無い料理を求めた父に代わり、鞠絵は父の代わりに「アミルスタン羊」の料理をリクエストする。夏はその料理の食材を手に入れるために夏の蓼沼に向かう・・・

【感想】
とても面白い展開の小説でした。お嬢様と使用人という設定が古き時代の出来事であることをあらわしていますが、そういう設定だからこその物語であり面白味があります。語り手や手記での素朴で素直な表現と、病的に感じる心の中と行動の差に驚くとともに恐怖も感じます。こんな不思議な雰囲気のミステリーは読んだ経験がなかったし、情景が浮かぶ文章も読みやすくて、とても楽しめました。

「身内に不幸がありまして」
残虐な事件のわりにはそういう理由なのかと、肩透かしをくらうというか、その冷淡さにぞっとするというか、複雑な思いになる話です。村里夕日の手記が素直すぎるので、丹山吹子もそうなのかと思って読んでしまうので、驚きが際立ちます。

「北の館の罪人」
内名あまりが語り手ですが、静かで境遇を素直に受け入れる優しい少女かと思わせてくれて、実は秘めた歪んだ思いで残酷なことをする恐怖を感じさせてくれます。犯人を示すしかけで、その後の運命も気になります。

「山荘秘聞」
この物語も、とんでもない行動を自分の満足感を満たすために平気でしてしまう恐ろしさを感じます。ただ、「余計なことを知った人には、口を閉じてもらいます」と後ろ手に持った煉瓦のような塊には、最初は恐ろしさを感じましたが、そういうことかとちょっとほっとして笑みが漏れる結末です。

「玉野五十鈴の誉れ」
この物語は玉野五十鈴の一途な忠誠心みたいなものを感じます。小栗純香とその両親は救われたので、玉野五十鈴にとっては主人のための行動で誉れだったのでしょうが、やったことは酷いことで共感はできない行動なので、複雑な思いで共感できない結末でした。最後の一行が特に恐ろしい物語。

「儚い羊たちの晩餐」
とんでもない結末なのに、料理人の夏も、依頼した鞠絵も淡々としているのが恐ろしいです。「アミルスタン羊」の正体とは?驚愕の結末です。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

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