小説「猫を処方いたします。」

【あらすじ】
京都市中京区の薄暗い路地にある「中京こころのびょういん」。心の不調を抱えてこの病院を訪れた患者に、妙にノリの軽い医者・ニケと不愛想な看護師・千歳が処方するのは、薬ではなく、本物の猫だった!? 戸惑いながらも、決められた日数、猫を「服薬」する患者たち。気紛れで繊細、手がかかるけど愛くるしい猫と暮らすことで、彼らの心も少しずつ変化していく。そして医者が猫を処方するのには、ある「理由」があって・・・

5話で構成されています。
第1話
香川秀太(22歳) 証券会社・営業
ブラック企業に勤め、日々上司のパワハラによって仕事を続けられるかどうか悩む秀太に処方されたのは、ビーという名の8歳の雑種のメス猫。ビーが縁で知り合った建築会社で新しい生き方を見つけていく。
第2話
古賀勇作(52歳) コールセンター係長
コールセンターで係長として働く古賀の上司として、中島雛子が異動してきた。雛子の「いいわね」という言葉が聞こえて夜眠れない古賀には、マルゴという3歳の雑種のメス猫が処方された。マルゴを介して増えた家族との会話によって、雛子のことを理解し始める。
第3話
南田恵 主婦・パート
学校での悩みを相談したいと娘の青葉に連れてこられた「中京こころのびょういん」。ニケは青葉ではなく恵に、生れて二ヶ月半の子猫を処方した。その猫は、恵がかつて飼うことができなかった捨て猫にそっくりだった。
第4話
高峰朋香(32歳) バッグのデザイナー
自分が完璧主義のために人が離れていく朋香。どうすれば他人の杜撰さに寛容になれるかを相談しにきた朋香に処方されたのは、タンクという2歳のアメリカンショートヘアのオス猫。しかし、その猫は処方間違いで4歳のラグドールのメス猫だった。結局2匹を処方された朋香は、ネコと過ごすうちに性格が丸くなっていく。
第5話
あび野(竹田亜美) 祇園の芸妓
あび野は2年以上前に、須田動物病院の須田院長から違法ブリーダーが残していった猫の話を聞いて、2歳くらいの三毛猫のメス猫を引き取った。千歳と名付けられた病弱なその猫は、飼ってから1年後のある満月の夜に開いていた窓から外に逃げてしまった。あび野はそのことを悔やみ続けていた。朋香から、「中京こころのびょういん」の看護師があび野にそっくりで、名前を千歳ということを聞いて、あび野は「中京こころのびょういん」に向かう。

【感想】
タイトルを見てどんな物語なのか興味を持ったので読んでみましたが、予想を超える内容で、とても心に沁みる素敵な物語でした。

「中京こころのびょういん」は、話を聞いて猫を処方するだけのところです。実はメンタルクリニックでもありません。先生のニケと看護師の千歳は、ある思いを持ってある患者を待っています。第5話で、千歳の待つ患者は訪れますが、ニケの待つ患者は訪れないまま終わります。続編があるので、まだ「中京こころのびょういん」は続いていくという終わり方です。

「猫好きじゃないと、猫を処方されてもこうはうまくいかないよね」、「たとえ猫が好きでも、急に猫を押し付けられても困ることの方が多いよね」という思いは持ちますが、この物語は猫は犬に置き換えてもよくて、要は日常の生活の煩わしさや生きづらさや悩みは、心を癒してくれるものがいて、それに時間を費やすことで解決するのではないかと示唆してくれるということが重要なのだと思います。私は猫好きなので、この物語での癒しがよくわかります。また、いろいろと考えすぎて心が疲労する性格なので、その癒しの必要性もよくわかります。心がトゲトゲして周りの人と会話が無くギスギスした雰囲気でも、猫がいてその姿や仕草に癒される時間が多くなればなるほど、たぶん心は丸くなり穏やかになり優しくなるような気がします。

そういう個々の処方に関する物語だけではなく、千歳の飼い主を思う優しさにも終盤、心打たれます。心がジーンとして優しい涙を流せます。よく考えられたストーリーで感心してしまいました。必要とする人の前にしか現れない「中京こころのびょういん」は、「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」とちょっと重なってしまいました。

いつかは猫を飼いたいと思っているのですが、心が寂しくなったら処方してもらおうかなと思います。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。

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