【あらすじ】
「分岐駅まほろし」、それは満月の夜にある場所に現れるという不思議な駅。過去に《後悔》を抱えた者たちが行き着く場所らしい。「分岐駅まほろし」では、現実は変わらないけれど、「もしもあの日、あの時、今とは違う生き方を選んでいたら…」、そんな過去の「人生の分岐点」へ戻り、選択することのなかったもう一方の人生を体験することができるという。まほろし駅を訪れた訳アリな男女が、別の選択の人生を体験することで、本当に大切なものに気づいていく・・・
「あなたの、人生の分岐点はいつですか?」
詳細は下記の通り。
第1話 もしもあの時、告白をしていたら
4月の満月の夜、仕事と家族に疲れる日々の田中昇がまほろし駅を訪れる。田中は、高校生の時に好きだった同級生から同窓会で好きだったと告白され、その同級生に告白していたら人生変わっていたのじゃないかという後悔が膨らんでいた・・・
第2話 もしもあの時、第一志望の大学に合格していたら
5月の面月の夜、第一志望大学に入れず滑り止めで受験した大学に通う森野奈央子がまほろし駅を訪れる。奈央子は、第一志望だった大学に合格した妹のことを自分への当てつけだと思って祝福できずにいて、仲が良かった妹との関係も悪化しており、第一志望の大学に合格していたらという思いが募っていた・・・
第3話 もしもあの時、夢を追わなければ
6月の満月の夜、SNSで炎上して活動休止中の人気ミュージシャン・真山大和がまほろし駅を訪れる。真山は、誹謗中傷に疲れてミュージシャンであることの意味を見失っており、ミュージシャンにならずに好きだった女性と平凡に暮らしていたほうが良かったという後悔が募っていた・・・
第4話 もしもあの時、病院に連れて行っていたら
7月の満月の夜、母親の手術を見守った飯田凜がまほろし駅を訪れる。凜は、もっと早く病気を発見していたら母親は苦しい思いをしなかったのではないかという後悔で自分を責めていた・・・
第5話 もしもあの時―
8月の満月の夜、ある自然災害で妻を亡くした葛城真一がまほろし駅を訪れる。災害時に真一は出張で妻のそばにいて助けることができなかったことや、なぜ妻が死ぬことになったのかという後悔で自分を責めていた・・・
【感想】
この作品は、自然に涙が溢れてくる素敵な物語でした。それぞれの話での過去の分岐点での別の人生は、現在の人生の大切なものを知るために都合よく書かれているという見方もできますが、「過去のことよりも、大切なことは現在の大切なものに気づいて前向きに生きること」というこの作品で伝えたいことを、感動的にうまく書かれていると思いました。
人生にはいろんな後悔があります。あの時、別の行動をしていればどういう結果になっていたか、そう思うことはいくつかあります。私の場合、その中で一番大きいのは、家族に対する自分の行動や言動です。もっと優しく接していたら、もっと希望通りにさせていたら、もっと自由にさせていたら、もっと親身に考えてあげたら、学校を辛くても続けられるようにしてあげていたら、そんな後悔が溢れてきます。それと合わせて、家族に対する不満も溢れていました。仕事で大変なのになぜ悩ませるんだとか、なぜ家をきれいにしないのかとか、もっと私のことを考えろとか・・・
そういうことに対する答えがこの物語にはありました。それぞれの話がすべて自分の考え方の未熟さと繋がっていて、自分がまほろし駅に行って、別の人生の分岐点を体験してきたような感じになりました。そして、過去を悔やむばかりではなく、これから後悔なきように生きるためには何が大切なのか、どんな考え方をすればいいのかが、わかったような気がします。まさに、この作品を読んだことが私の分岐点のひとつになるような気がしました。
たくさん感じるものがありましたが、忘れないようにしたい言葉のいくつかを記録しておきます。
(第1話・田中)
自分の小ささと、見た目だけ歳を重ねていつまでも成長していない心の中の未熟さに気づかされた。たくさんの大切なものに囲まれていたのに、いつの間にか気づけ無くなっていた。
(第1話・駅員)
過去のもう手に入らないものの数を数えるよりも、今目の前にある大切なものの数を数えてはどうですか。
(第2話・駅員)
起きてしまった過去は変えることはできませんが、人との関係性は今からでもあなた次第で変えられるはず。
(第3話・駅員)
どちらの選択肢の人生を歩んでも後悔はあるんだと思います。だから、人は結局、後悔の小さい選択肢を選んでいくしかないのかもしれません。そうすればきっと自分にとって満足なゴール地点にたどり着いているんじゃないかなって思います。
(第4話・駅員)
我々はただの人間、日々の目の前の出来事に落ち込んだりくよくよしたりする。けれど、それでいいんだと思う。良いことも悪いことも、その場で一喜一憂しながら日々を過ごしていけばいいんだと思う。そうやって少しずつ前に進んでいくのもひとつの生き方なんだと思う。
(第4話・駅員)
前を向くことすらも辛い時には、後ろを向いてそのまま後ろに歩けばいいんだ。
(第5話・真山の妻)
すべてのことが自分に責任があるなんて思って自分を責めないで。それは苦しいだけ。自分のことを許してあげていいんだよ。
(第5話・駅員)
まほろし駅からは過去の分岐点に戻ることができます。でも、これからは今日があなたにとっての新たな一日です。今日をまたあらたな分岐点にしてほしいと思います。そして、少しずつでいいから前を向いてほしいと思います。
(作者あとがき)
強い後悔を抱かえてしまうのは、「関係した人や物事への想いがとても強かったから」。だから、強い後悔をするということは、自分がだれかや何かに対して一生懸命に向き合った結果です。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。


コメント