【あらすじ】
「また高齢ドライバーの事故かよ」。猪狩雅志はテレビニュースに目を向けた。そして気づく。「78歳っていえば……」。雅志の父親も同じ歳になるのだ。「うちの親父に限って」とは思うものの、妻の歩美と話しているうちに不安になってきた。それもあって夏に息子の息吹と帰省したとき、父親に運転をやめるよう説得を試みるが、あえなも不首尾に。通販の利用や都会暮らしのトライアル、様々な提案をするがいずれも失敗。そのうち、雅志自身も自分の将来が気になり出して・・・。果たして父は運転をやめるのか、雅志の出した答えとは?心温まる家族小説!
【感想】
先週から奥さんや娘の通院が続いていたので、その待ち時間を使って読みました。最近、高齢者による交通事故がニュースになる中で、自分もこれから運転をどう考えて行けばよいのかを少しでも考えることができればいいかなと思って読んでみました。
読む前は、運転をやめたくない父をどのようにしてやめさせようとするのか、父はどう言い張って運転を続けようとするのか、そういう面白おかしい物語を思い浮かべていましたが、まったく異なる展開の物語でした。公共交通機関の不十分な地域でのクルマ移動、老いる人たちの生きがい、そういう親を持った子供たちの対応、子供の育て方、そういう社会的な問題を、短絡的な「高齢者の運転はやめさせるべき」という意見に流されることなく、猪狩雅志の目を通して理想の姿、本来の人間の生き方などを考えさせてくれる良い作品でした。
この作品を読むと、あらためて「将来のため」の将来とはいつなのか、その「将来」までは自分を我慢して暮らす必要があるのか、我々は定年後のためにいろんなストレスに耐えて頑張ってきたのか、など、そういうことも考えさせてくれます。私は幸いにも健康に定年を迎えていますが、それは誰にも穏やかに訪れるものではありません。自分がどう生きたいかが大切だということを今からでも心して生きていきたいと思います。
高齢ドライバーの問題は、年齢で一律に考えることでもありません。個人の状況にもよりますし、生きがいのことも考えないといけません。自分は運転能力の衰えを感じた時に素直に免許返納できるのか、認知症になった場合家族に従うことができるのか、そういうことも正常な時に家族で話し合っておくことが大事です。また、心がふさぎこむ生活を避けることも大切で、毎日生き生きと暮らすためにはどんな暮らしがいいのか、そういうことを意識するのも大切なことです。
いろんな面で興味深い面白い作品でした。

上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。また、ネタバレの記述もありますのでご注意ください。


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