映画「博士の愛した数式」

博士の愛した数式     2007年5月19日(土)フジテレビ系土曜プレミア
2005年度作品。
原作は2004年の本屋大賞受賞作であり、映画は2006年1月公開の作品です。
私は、昨夜のテレビ放映ではじめてこの作品に触れたことになります。
円周率πと自然対数の底であるネイピア数eと虚数単位iの調和。
円周率は円の直径と円周の比として意味を持ち、ネイピア数は指数関数とその接線とx軸でできる三角形の底辺で図形的意味を持ち、虚数は二乗してマイナス1となる架空の数値として定義されている。それはまったく別の物差しで意味を持つ値であるにもかかわらず、それが実は簡単な自然数1で結ばれている。
それは、博士が愛したオイラーの等式。
この映画は、博士(寺尾聡)と家政婦(深津絵里)とその息子の暖かな気持ちが感動を与えてくれて、優しい気持ちになることができます。博士の記憶が80分で消えるという悲しさは、悲劇的ではなく日常の出来事でほろ苦く切なく表現されています。「君の靴のサイズはいくつかね?」「君には子供がいるのかね?」の繰り返しが面白くも実はとても悲しい。数字でしかコミュニケーションをとれない不器用な博士ですが、その話は小難しい話ではなく楽しく数字に引き込んでくれる優しい話ばかり。数字の話が人生の話に感じたり、壮大な宇宙の話にも聞こえたりします。全体が暖かい心で流れるがゆえにその奥にある悲しさが余計に心に滲みて目が潤んできてしまいました。
友愛数、完全数、そして超越数と虚数を1で結びつける式。一見、無関係に見えるものたちにも、それを解きほぐしていくと実は美しい必然の関係が裏に潜んでいて、それは人との関係でもあてはまるように思えます。数字や証明の美しさも、花や星空の美しさと同じように人が感じる美であり、その美は人の生き方や考え方にも通じます。生きていくうえでは必要ないんじゃないかと思われる数学も、こういう考え方で見てみると、きっともっと数学に対する見方が変わり人々の心の中に残るのかも知れません。知識というものの素晴らしさとその受け取り方がとても大事だということを感じました。
そういう中でのオイラーの等式は、この映画では特別な意味を持っています。博士が一番愛する式であるとともに、過去の辛い思いを表す式になっています。eのπi乗は-1。この-1は博士と博士が愛したNが背負った悲しい数字でもあるのです。
数字や数式が一切の迷いなく凛としているように、この映画自体も凛とした気持ちよさと優しさが感じられるとてもよい映画だと思います。

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